研究概要 |
1.幼生飼育1987年3-4月に孵化したタラバガニのゾエアを1-2トン水槽に収容し、餌料はArtemia nauplii+Thalassiosira sp.、Artemia nauplii、Thalassiosira sp.の3区として7-9℃で飼育した。それぞれの餌料区のゾエア期の生残率は94.5,83.5%、37.5%、グロコトエに変態まで期間は29,32、40日で、併用区が最も良好であった。摂餌しないグロコトエはそれぞれ23.8、25.4 22.3日間に、生残率91.5,83.5および54.0%で稚ガニに脱皮した。また1令ゾエア(平均湿重量1.49mg)からグロコトエへの増重率はこれら3餌料区について、それぞれ263,201,126%であった。このようにThalassiosira単独区の飼育成績は良くないが、Artemiaと併用することによって餌料効果は著しく向上した。2.消化管の組織学的観察 1令ゾエアは中腸腺および中腸前部の盲腸の上皮細胞に大量の脂肪(卵黄)を持って孵化する。ゾエアの全期間中腸腺の中央部および中腸前部の盲腸の末端部に脂肪の蓄積が認められたが、中腸腺の後部には脂肪は殆ど含まれていなかった。初期グロコトエの中腸腺は最終令ゾエアのそれと形態的に相同であったが、後期グロコトエにおいては中腸前部の盲腸の縮小、中腸および中腸腺後葉の伸長が生じた。ゾエアからグロコトエ初期にかけて中腸腺の吸収細胞に蓄積されていた脂肪滴はグロコトエ後期には小さくなり、摂餌しないこの期の運動エネルギーとしての消費および稚ガニへの体構成成分として利用されたと考えられる。3.脂肪酸含量および組成の分析 脂質分析の結果ではArtemiaは16:0,18:1,18:3n-3および20:5n-3(EPA)を、Thalassiosiraは14:0,16:0,16:1および20:5n-3(EPA)を多量に含有していた。いずれの餌料区においても、ゾエア期に脂質の急激な蓄積が見られ、蓄積した脂質はグロコトエ期に消費された。なお極性脂質に比べ中性脂質の変動が顕著であった。また幼生の体脂肪酸含量は餌料の脂肪酸組成に強く影響されていることが示された。
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