タラバガニ類は北洋を代表する重要な十脚甲殻類であるが、近年資源の減少が深刻な問題になっている。その原因としては、長期的な海洋環境条件の変化あるいは恒常的な乱獲が考えられている。しかし、問題検討の基礎となるタラバガニ類の初期生活期における生理・生態学的知見は十分に解明されていない。先に、タラバガニ幼生はグロコトエに変態すると、口器を構成する附属肢及び消化器官の前腸が退化して、摂餌及び消化作用に全く機能しなくなることを明らかにした。従って、活発に遊泳して着底基質を探索するグロコトエのエネルギー源はゾエア期の摂餌によって蓄積された体脂肪と考えられる。中腸腺の吸収細胞には、ゾエア期からグロコトエの初期にかけて大量の脂肪滴の蓄積が認められたが、グロコトエ後期には顆粒として基底膜側に少量存在するに過ぎなかった。変態型がnon-feeding段階である特徴は、先にイセエビのプエルルスで解明した。両種の相違は、プエルルスでは中腸腺に接して大きな脂肪体が存在するのに対して、グロコトエの体腔内にはかかる脂肪体は存在しないことである。グロコエの期間は8℃で約21日間であるが、プエルルスのそれも20℃で約21日間である。沖合で変態するプエルルスは接岸するまでに長距離の遊泳を行うと考えられ、そのため特化した脂肪体を有するのであろう。それに対し、グロコトエは比較的沿岸で変態すると考えられる。グロコトエの生残率はゾエア期の餌料条件に支配され、Artemia・珪藻Thalassiosira併用区で最も良好であった。Artemia区ではゾエア期には併用区との差がなかったが、グロコトエ期に低下した。ゾエアは卵黄由来の脂質を有して孵化する。投餌に伴いゾエア期では成育するにつれて脂質が大量に蓄積され、グロコトエ期には消費された。脂質含量は極性脂質に較べ中性脂質で大幅な増減が見られた。
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