研究概要 |
魚肉タンパク質中、ミオシンは最も多い成分で、その性状は魚肉の加工適性や貯蔵適性に大きな影響を与えるが、一次構造の情報がほとんどないため、分子レベルの研究は困難をきわめている。そこで本研究は、コイ普通筋を対象に、遺伝子工学的手法を用いてミオシン重鎖および軽鎖サブユニットの全一次構造を解明することを目的とした。 コイの普通筋ミオシンはサブユニット構造をとり、1分子は約200kDaの重鎖2本と、20kDa前後の軽鎖4本からなる。さらに、ミオシン1分子には、アルカリ条件下で重鎖から解離するアルカリ軽鎖2本と、5,5'-dithio-bis(2-nitrobenzoic acid)(DTNB)処理で重鎖から解離するDTNB軽鎖2本が含まれる。アルカリおよびDTNB軽鎖はそれぞれ、必須および調節軽鎖とも呼ばれている。昨年度で既にミオシン重鎖およびアルカリ軽鎖の全一次構造を決定することができた。そこで本年度は残りのDTNB軽鎖の全一次構造を決定することを試みた。すなわちまず、前年度に構築したコイ普通筋のcDNAライブラリーから、申請者らが以前調製したカツオ普通筋に対するウサギのポリクローナル抗体を用いて、DNTB軽鎖をコードするcDNAクローンのスクリーニングを行った。次に、単離したクローンにつき、pBluescript SK-プラスミドにサブクローニングした。その結果、コイDTNB軽鎖は、3'非翻訳領域の長さが異なる、1.4および0.8kbのcDNAのクローンからコードされていることが明らかとなった。また、その塩基配列からDTNB軽鎖の全一次構造を演繹したところ、2つのcDNAクローン間で、演繹アミノ酸配列は全く一致した。さらに、両cDNAを共通に認識するプローブを用いて、Northern blot法により10℃および30℃馴化コイのmRNA蓄積量を調べたところ、その比は約3.3倍と、低温馴化魚の方で有意に高かった。
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