くさや汁中の特徴的な細菌として、顕微鏡下で多数の螺旋菌が観察されるが、これらの多くは培養が困難なためその性状については不明であった。本研究ではこれら螺旋菌の分類学的位置について検討した。供試菌として先に開発した螺旋菌分離装置を用いて新島、大島等のくさや汁より分離した菌株を用い、まず培養条件(培地組成、食塩、pH、酸素濃度等)を確立し、次にこれら菌株につき表現形質(形態、生化学性状、培養性状等)、化学性状(菌体脂肪酸組成、細胞壁成分)、遺伝子性状(DNAの塩基組成、DNA-DNAハイブリダイゼーション、制限酵素による16SrDNA切断パターン(RFLP)解析)を調べた。さらに代表株について16S rRNAおよびgyraseβサブユニット遺伝子配列を決定し、近縁種との系統解析を行った。 くさや汁からの分離螺旋菌は大型で平板培地では増殖できず酸素濃度6%程度の微好気条件下でのみ増殖できる群と、小型で培養可能な群の2群に分かれたが、いずれも好塩性で、従来の分類ではOceanospirillum属に分類された。しかしいずれも表現形質では種レベルの分類的位置は特定できなかった。これらは16S rRNAおよびgyraseβサブユニット塩基配列を用いた系統解析および近縁種とのDNA-DNAハイブリダイゼーション等の結果から新属に該当すると考えられたので、新たにMarinospirillum属を提唱し、前者にM.megaterium、後者にM.insularisと命名した。
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