研究概要 |
本研究の目的は,哺乳類における生殖フェロモンの受容機構,伝達経路そして中枢作用機序を明らかにすることである。本年度は以下に概括されるような実験を行った。 まずフェロモンの受容機構については,1995年末にマウスで最初に報告されたフェロモン受容体をコードすると考えられる遺伝子配列をもとに,予想されるアミノ酸配列から合成したオリゴペプチドを抗原として,フェロモン受容体を認識しうる抗体を作製した。この抗体のスクリーニングを経て,光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルでの免疫組織化学的検索を実施し,ラットの鋤鼻器の感覚上皮に存在する鋤鼻神経の鋤鼻腔表層に存在する微絨毛を特異的に染色することに成功し,フェロモン受容機構を形態学的に検討してゆくための有用な研究手法を得ることができた。 フェロモンの情報伝達機構に関しては,ラットで鋤鼻器から副嗅球への神経投射様式について検討を行うとともに,シバヤギの鋤鼻器について形態学的検討および鋤鼻器内への薬物投与と神経刺激のために必要な技術であるカテーテル留置法の開発を行った。これらの課題については本年度の成果を基礎として来年度以降により詳細な検討を重ねてゆく予定である。 一方,フェロモンの中枢作用機構に関しては,シバヤギの視床下部内側底部に脳定位的に留置した電極より記録されるGnRHパルスジェネレーターの活動を反映した多ニューロン発射活動の特異的パターンを指標とした生物検定系を活用して,視床下部神経活動に及ぼすフェロモン呈示様式の影響等に関する検討を行った。この系は今後フェロモンの産生機構に関する研究にも応用してゆく予定である。また雌ラットにエストロジェンを投与して持続発情を惹起するモデルを用いて,雄ラットの尿の呈示がもたらす効果について,今後の神経行動学的解析のための基礎検討を行った。
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