研究概要 |
本研究の目的は,哺乳類における生殖フェロモンの受容機構,伝達経路,そして中枢作用機序を明らかにすることにある。本年度は以下に概括されるような実験を行った。 1) フェロモン受容機構に着いては,昨年作製したラットのGαi2結合型フェロモン受容体の抗体を用いて,免疫組織化学的に受容体の局在を観察した。本抗体に認識された受容体は鋤鼻神経細胞の感覚上皮表層付近に認められ,その発現は生後10日前後から確認された。電子顕微鏡では,免疫反応は鋤鼻神経細胞の微絨毛を含む先端部に限局して観察され,感覚細胞の約46%が陽性であった。またその免疫反応は鋤鼻神経切断後に消失した。 2) フェロモンの情報伝達機構に関しては,ラットで鋤鼻器から副嗅球への,さらに副嗅球から扁桃体への神経投射様式の検討を行うとともに,シバヤギ鋤鼻器及び副嗅球の形態学的検討を行った。予備的実験結果ではあるが,シバヤギの鋤鼻器には単相の感覚細胞が観察され,2層構造をなす齧歯類のものとは異なっていた。さらに鋤鼻器感覚細胞にはGαi2のみが染色され,ラットで報告されているGq蛋白結合型のフェロモン受容体が存在しない可能性が示された。同様に,副嗅球においてもGαi2のみが観察され,齧歯類とは異なった形態であることが明らかとなった。 3) フェロモンの中枢作用機構に関しては,視床下部内側底部に留置した電極より,GnRHパルスジェネレーターの特異的神経活動をモニターし,その発火パターンを指標とした生物検定法を用いて、視床下部神経活動に影響を及ぼすフェロモン物質の同定を進めた。現在までに,雄シバヤギの頭部皮脂腺にて,テストステロン依存性に産生される酸性脂質内にフェロモン活性本体が含まれることが明らかとなった。
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