研究概要 |
本研究の目的は,哺乳類における生殖フェロモンの受容機構,伝達機構,そして中枢作用機構を明らかにすることにある.本年度は以下に概括されるような実験を行った. 1)フェロモン受容体候補遺伝子は,鋤鼻器特異的に発現がみられ,げっ歯類では2種類の異なる受容体遺伝子ファミリー(1型,2型)を形成することが報告されているので,我々はシバヤギにおける各々の遺伝子ファミリーに属するホモログ遺伝子の同定を試みた.得られた数種類の2型ホモログ遺伝子はげっ歯類のものと約45-70%,魚類のものと30-40%の相同性を示し,そのうち少数が鋤鼻器で実際に発現していることが明らかとなった.一方,1型ホモログ遺伝子のアミノ酸配列はラットのものと約70%の相同性を示したが,シバヤギではこの遺伝子がゲノムDNA上には存在しているものの鋤鼻器で発現しておらず,齧歯類の鋤鼻器における2種類のフェロモン受容体候補遺伝子ファミリーの発現とシバヤギにおけるこれらの遺伝子の発現様式は異なっていることが示唆された.同様に免疫染色の結果,シバヤギ鋤鼻器においては膜結合蛋白であるG蛋白αサブユニットのうちGαi2のみが観察され,げっ歯類で観察されるようなGαi2とGoの2種類の膜蛋白による明瞭な部位別局在様式を示さないことが明らかとなった.さらに他の哺乳類(ウシ,ウマ,マーモセット)でも同様にGαi2のみが観察された. 2)雄ヤギプライマーフェロモンの分離精製を目的とした研究の一環として,まずその産生機構解明のため去勢シバヤギの皮下に,デヒドロテストステロン(DHT),エストラジオール(E2),およびDHT+E2を移植し、フェロモン活性の消長と皮脂腺の発達を評価した.その結果,DHTによって,頭部と臀部両方の皮脂腺にフェロモン活性が誘導されたが,皮脂腺の発達は頭部に限局され,皮脂腺の発達とフェロモン活性が必ずしも相関しないことが明らかとなり,フェロモン精製にはDHT移植去勢シバヤギの臀部の皮膚を試料として用いるのが適当であることが示唆された.
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