研究概要 |
哺乳類の精巣は通常陰嚢内に存在し、体温よりも数度低い温度に保たれることにより正常な精子発生が行われている。一方鯨類は、水中という特殊な環境に適応しているため、体は流線型を呈し、陰嚢をもたず精巣は腹腔内に位置する。そのためどのような温度調節機構によって精子発生が行われているかについては未だ不明である。本研究ではまず、マウスを用い実験的に腹腔内精巣を作り出し、精巣の温度上昇に伴う変化について検討した結果、著明な変化は処置後1週で起こり、多数の精細胞に核濃縮、細胞質の好酸性変化および濃縮が認められ、TUNEL陽性細胞も観察された。次に精巣が未だ腹腔内にある前精子発生期のマウス精巣をレクチン染色により観察した結果、sWGA,VVA,LEAが精細胞(gonocyte)に特異的な結合を示した。さらに短日条件飼育により、精巣が著しく萎縮し陰嚢が不明瞭となるハムスターの精巣を観察したところ、レクチンの1種、DBAが非繁殖期の精祖細胞に特異的な結合を示した。イルカ類の精巣については、バンドウイルカおよびハナゴンドウを用い、熱や種々のストレスから細胞自身を防御するため誘導、産生される熱ショックタンパク質(HSP)の発現を、ヤギとの比較の上で検討した。HSPfamilyのうち、HSP84および86を取り上げ、抗体を用いた免疫組織化学を行った。その結果、HSP84と86では明らかな相違が認められた。84はB型精祖細胞に強い反応性を示したのに対し、86は精母細胞ないし精子細胞に強い反応性を現した。これらの反応性の違いから、84と86は精細胞分化の異なる過程でそれそれ役割を担っている可能性が示唆された。また、特に86において種間差が認められた。ヤギではパキテン期以降の精母細胞および円形精子細胞に、バンドウイルカではパキテン期精母細胞では反応が認められず、それ以前の精母細胞および円形精子細胞に、またハナゴンドウではすべての精母細胞が反応したが、精子細胞は反応性を示さなかった。
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