ラットやヒトにおいて体脂肪量の増加は脂肪細胞からのレプチン分泌を促進する。また、これらの動物ではレプチンは採食行動の抑制・基礎代謝の増加を介して体脂肪量を減少させる。しかしながら、反芻家畜におけるレプチン分泌調節ならびにその作用は明らかではなかった。第一に本研究では、メンヨウ側脳室にマウスレプチンを投与すると採食量が減少し、体重、体温が上昇することを明らかにした。この結果から、反芻家畜でも単胃動物同様にレプチンは採食行動の抑制・基礎代謝の増加を生じることが示された。第二に本研究ではメンヨウから15分間隔で24時間採血を行い、血漿中レプチン濃度を測定した。メンヨウでは人と同様にレプチン分泌は脈動的に生じることが示されたが、ヒトやラットと異なり、採食や日照条件などの影響を受けず、また血漿中コルチゾール濃度の影響も受けないことを明らかにした。第三に本試験では肥育牛から採血を行い、肥育の進行に伴い血清中レプチン濃度は上昇すること、血清中レプチン濃度と脂肪交雑には正の相関があるが皮下脂肪厚やロース芯面積とは関連がないことを明らかにした。そこで、レプチンは特に肥育後期において肉牛の生産性に悪影響を及ぼす可能性ならびに血中レプチン濃度を測定することにより脂肪交雑の程度を推定できる可能性が示唆された。第四に本試験ではレプチン分泌を食餌性因子により調節する試みをラット脂肪細胞の培養系を用いて検討し、バナジウム添加はレプチン分泌を促進すること、インスリンとともにバナジウムを添加するとさらにレプチン分泌が増加することを明らかにし、バナジウムのレプチン分泌促進作用はインスリン作用の増強を介して生じることを示唆した。
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