哺乳類においては性周期毎に卵胞の99%以上を閉鎖によって選択的に死滅させる機構が存在し、この過程で顆粒層細胞が特徴的核濃縮像を呈しながら消失する。この分子機構を解明するため本研究を行い、次のことが分かった。すなわち、卵胞を構成する内外卵胞膜細胞、顆粒層細胞、卵丘細胞、卵母細胞を顕微鏡下に精密の分離できるブタ卵巣を材料として用い、健常卵胞から調整した顆粒層細胞を抗原として感作し、顆粒層細胞にアポトーシスを誘起させことのできるlgMクラスモノクロナール抗体を作成した。この抗体が認識するのは、顆粒層細胞にのみ局在する膜結合性糖蛋白で、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーに属するが既知の分子とは異なる新規な細胞死受容体である。蛍光抗体法とウエスタンブロット法ではこの抗体は顆粒層細胞とのみ反応し、胸腺、肝、精巣など既知細胞死受容体のFasやTNF受容体が発現する器官を含めて他の器官では陽性反応を検出できなかった。さらに、初代培養顆粒層細胞の培地にこの抗体を添加して培養した場合、特異的にアポトーシスを誘導でき、このアポトーシスは培地中にいくつかのカスパーゼ様プロテアーゼ阻害剤を添加した場合に阻害された。分子量、等電点、カスパーゼ様プロテアーゼ阻害剤に対する阻害スペクトルなどの生化学的特性、免疫化学的特性、組織化学的局在などがFasやTNF受容体ファミリーに類似するものの、既知の何れとも異なることから、卵胞顆粒層細胞にのみ局在する新規な細胞死受容体であることを証明できた。また同様にして、分子量42と55kDの2種の膜蛋白を認識するlgGクラスモノクロナール抗体を作成した。この抗体はlgM抗体によるアポトーシスを阻害することや抗原蛋白の解析から、新規受容体と細胞外構造が類似するDecoy受容体を認識するものと考えられ、卵胞の生死が特異的細胞死シグナル-受容体のみならず、偽受容体による細胞死シグナルからの回避によっても制御されていることが新たに示唆された。
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