研究概要 |
ラット膵島β細胞を高濃度ぶどう糖で刺激すると、細胞内Ca^<2+>の一過性の上昇と引き続く振動性変動を伴った長時間の上昇が認められる。一酸化窒素(NO)の供与体であるNOR3を添加するとこのCa^<2+>変動が強く抑制された。NOの消去剤であるオキシヘモグロビンはこの抑制を解除した。活性酸素とNOを生成し、その結果強細胞毒性のONOO^-を産生するSIN-1は、ぶどう糖によるCa^<2+>変動に対して無効であった。O_2^-の消去剤であるSODを添加するとSIN-1はCa^<2+>変動を抑制した。高濃度K^+液による脱分極性Ca^<2+>変動に対してNOは無効であった。NOによるDNA損傷はPARS修復系を活性化しATPが消費される。ATP消費増加はインスリン分泌の起動に必須のK_<ATP>channelを開口し、分泌を抑制する可能性がある。しかしPARS抑制薬である3-AB存在下でもNOによるCa^<2+>変動抑制が残存した。以上から、ONOO^-やO_2^-ではなくNOによる膵島β細胞でのATP産生抑制の結果K_<ATP>channelが開口して脱分極が阻害されて、細胞内Ca^<2+>変動が抑制されてインスリンの開口放出が障害されるものと考える。 ラット腹腔内肥満細胞をcompound48/80(c48/80)で刺激すると開口放出が観察される。光増感物質を前もって細胞内に負荷して光照射すると、細胞内Ca^<2+>濃度が生理的刺激に類似して変動する(Cui et al.,1997)。しかし逆に肥満細胞では光増感物質はc48/80による開口放出を強く抑制した。この抑制は一重項酸素消去剤のNAN_3で消失したことから光増感物質への光照射で生成した一重項酸素が開口放出を抑制したものと思われる。今後細胞内Ca^<2+>動態に対する効果を検討する計画である。 Na^+-Ca^<2+> exchanger阻害薬のKB-R7943は低Na^+灌流液によるラット膵島β細胞の細胞内Ca^<2+>濃度上昇を抑制したことから、膵島β細胞の開口放出機序にNa^+-Ca^<2+> exchangeが関与していると推測される。 ラットの腹腔内肥満細胞は、開口放出に伴う顆粒膜の融合に起因する膜容量の測定に理想的である。現在技術的な問題をひとつひとつ解決しながらパッチクランプ法による膜容量測定系を立ち上げている。 その他、涙腺における腺房細胞と筋上皮細胞のCa^<2+>動態(Satoh et al,.1997)、ラット副腎髄質の刺激一分必連関の生後発達(Oomori et al,1998)やサブスタンスPの作用(Suzuki et al,準備中)も検討している。
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