研究概要 |
本研究の目的はイヌジステンパーウイルス(CDV)を用いた種特異性を規定する機構の解明、および近年の宿主域拡大と流行の原因の解明をすることである。本年度は以下の成果を得た。 (1)CDVの流行において全ての流行株が新型のウイルス株に変異したのか否か,またワクチン接種の直後に発症した個体において原因ウイルスがワクチン株の病原性復帰であるか新型ウイルスが新たに感染したことによるのかは重要な問題である。そこでこの問題に答えかつ流行ウイルスの分布状況を簡便に調査するために,制限酵素切断パターンの多型性による診断法(Restriction fragment length polymorphism;RFLP)を開発した。 (2)CDVの新型流行株のH遺伝子上に糖鎖付加可能部位がワクチン株では4ヶ所であるのに対し,9ヶ所に増加していることを示していた。H遺伝子に変異を導入することによって実際の糖鎖付加部位を解析したところ、2,3,4,5,6番目で糖鎖修飾がなされており、そのうち3番目の糖鎖はやや性状の異なる可能性が示唆された。 (3)さらに、野生動物への伝播状況を把握するための海棲および陸棲哺乳類の血清疫学調査も継続して行った。本年度は海棲哺乳類へのモービリウイルス感染が日本近海にあることの追跡調査を進め、さらに近年のカスピ海でのアザラシの大量死の原因がモービリウイルス感染であったことを示唆した。また以前バイカルアザラシに大流行を起こした感染症が依然持続していることも示した。 (4)CDVでのリバースジェネティックス系の開発を行い、組替えCDVの回収に成功した。用いたCDV発現プラスミドには、各遺伝子間に特異的な制限酵素認識配列を導入してあり、将来的に構成蛋白遺伝子の欠如や組み換えに使用でき、組換えCDVを用いた研究が初めて可能になった。
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