本研究の目的はイヌジステンパーウイルス(CDV)の種特異性を規定する機構の解明、及び近年の宿主域拡大と流行の原因を解明することである。近年、これまでワクチンでコントロールされてきたCDV感染が世界的に増加してきている。我々はこれまでCDV感染犬から多くのCDVを野外分離を行いその性状を血清学的、免疫学的、遺伝学的に検討してきた。Haemagglutinin蛋白質の遣伝子解析では、近年の流行株では糖鎖修飾可能部位が増加していること、H遺伝子のrestriction fragment length polymorphism解析からワクチン株や旧型株とは異なる新型株に属することが明らかになった。また、モノクローナル抗体を用いた交差試験により、流行株ではH蛋白の中和エピトープの少なくとも一つが変異していると考えられた。次に分離した野外株の一つであるY荷a株の全塩基配列を決定して、CDVでのリバースジェネッティクス系の開発を行い、組み換えCDVの回収に成功した。用いたCDV発現プラスミドには、各遺伝子間に特異的な制限酵素認識配列を導入してあり、将来的に構成蛋白遣伝子の欠如や組み換えに使用でき、組み換えCDVを用いた研究が可能になった。野生動物における疫学調査では、血清学的な研究で日本近海に生息する海棲哺乳類でモービリウイルスの感染があることを示した。また近年カスピ海でのアザラシの大量死の原因がモービリウイルス感染であったことを示唆した。日本の野生タヌキからウイルスの分離に成功し、血清学的な調査とともに遣伝子解析も行うことができた。H蛋白のアミノ酸配列の解析では、近年イヌから分離された野外株と4個だけ異なっていたため、イヌからの伝播が示唆された。
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