研究概要 |
代表的リピドキナーゼであるホスフォイノシチド3-キナーゼ(PI3-K)のうち、ホスファチヂルイノシトール(Ptdlns)とPtdlns4ーリン酸(Ptdlns4-P)の3位をリン酸化して、Prdlns4,5-Pをリン酸化しないものはII型と名付けられるが、これに属する新しい分子種をラット肝臓から遺伝子クローニングにより同定した。推定分子量170,972で、C端にC2ドメイン構造を含み、肝臓に特異的に発現し、肝部分切除後の再生時に発現増強がみられた。培養細胞に強制発現をさせると、ゴルジ装置の膜に強く、細胞膜と核膜に弱く局在していた。目下,I型およびIII型(ショウジョウバエで膜輸送に関与することが判明している種)のラットでの分子種を同定して、3種それぞれの発現局在・調節を精査中である。つぎに、細胞内シグナルカスケード上でPI3-K産物で活性化されるとみなされるserine/threonine型プロテインキナーゼであるAktの遺伝子発現をラット脳で精査した。胎生期脳とくに胚芽層で強く発現され、成体脳ではいずれの部位でも減弱していたが、運動神経線維を切断するとその中枢内神経細胞体で発現増強がみられた。昨年度われわれが発見したI型PI3-Kの神経切断後発現増強所見とあわせると、AktはPI3-Kとともに細胞分裂増殖だけでなく、もはや分裂しない神経細胞の軸策再生に深く関与することが判明した。また、細胞内でPIを膜間で輸送するのに重要と考えられる分子であるPITP(phosphatidylinositol transfer protein)のラット脳内遺伝子発現を精査して報告した。もう一つのリピドキナーゼであるジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)については、オランダのvan Blitterswijk博士と共同で、DGKの分子構造と特性を遺伝子クローニングにより明らかにした。さらに、DGKの産物であるホスファチジン酸をCDP-DGに換えるCDP-DG合成酵素の分子構造と特性を遺伝子クローニングにより明らかにして、脳、網膜、精巣で強く発現することを発表した。
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