内在性レクチンの存在様式と意義

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09470004
• 研究機関: 杏林大学
• 研究代表者: 平野 寛 杏林大学, 医学部, 教授 (10086481)
• キーワード: ガレクチン / 線虫 / 光顕観察 / 電顕観察 / 内在性レクチン / 組織細胞化学

研究概要

1)線虫(C.elegans)におけるガレクチンの局在の検討:
ガレクチンはガラクトースに特異的な動物レクチンであり、細胞膜や細胞間基質にあって糖の関与する様々な接着反応や各種の情報伝達に関与するとされる。近年、高等動物のみならず線虫や海綿などを下等動物に見出され、糖鎖特にガラクトースを介した細胞間相互作用が、動物界に普遍的に存在して重要な役割を果していると推定されている。とりわけ、線虫(Caenorhabditis elegans)は、わずか千個程度の細胞からなる下等動物であり、生活環が短く、ゲノム解析もかなり進んでおり、実験モデルとして極めて優れた特性を有している。今回、C.elegansに存在する主要ガレクチン(32-kおよび16-kDa)に対する特異抗体を用い、これらの局在を光顕・電顕的に検討し、発生過程に伴う変化を比較した。
様々な発生ステージの線虫(C.elegans)を4%ホルムアルデヒドまたは0.2%グルタルアルデヒド+4%ホルムアルデヒドで前固定(4℃,1h)したのち、一部はクリオスタット切片(厚さ5-10オm)を作製、抗ガレクチン抗体の局在を、Cy3標識二次抗体を用いて共焦点レーザ顕微鏡により観察した。また一部はLR-Whiteに包埋し、超簿切片を作製、抗ガレクチン抗体の分布をコロイド金標識二次抗体により検出し、透過電顕下で観察した。
16-kDaガレクチンは、線虫の消化管の開口部、咽頭部上皮と微絨毛の細胞膜、および消化管上皮細胞膜などに見出された。一方32-kDaガレクチンは、これらの部位に加えてクチクラ層直下の皮下細胞膜上にも観察された。ガレクチンはニワトリ胚では皮膚の細胞膜やデスモゾーム領域にも見出されており、さらに発生過程に応じて、肝、筋、腸などの各臓器に発現することが知られている。線虫では発生過程を通じて、腸管や表皮に幅広く分布し。形態形成過程のみならず、採餌や消化活動に積極的に関与し、また外部環境との境界面におけるバリアーとして機能していることが想像される。
2)かねて寄稿を依頼されていた総説"Endogenous Animal Lectins"原稿を脱稿、Progress in Histochemistry and Cytochemistry誌(独:Graumann教授)に送付した。本総説にて、内在性動物レクチンに関する最近の知見を一括してまとめた。

研究成果

• [文献書誌] Takata K, Hirano H, Kasahara M: "Transport of glucose across the blood-tissue barriers." Inv Rev Cytol. 172. 1-53 (1997)
• [文献書誌] Mizuochi S, Akimoto Y, Imai Y,Hirano H, Irimura T: "Unique tissue distribution of a mouse macrophage C-type lectin." Glycobiology. 7. 137-146 (1997)
• [文献書誌] Yamaguchi H, Osaki T, Taguchi H, Yamamoto T, Hanawa T, Fukuda M, Kawakami H, Hirano H, Kamiya S: "Growth inhibition of Helicobacter pylori by monoclonal antibody to heat-shock protein 60." Microbiol Immunol. 41(in press). (1997)
• [文献書誌] Takata K, Fujikura K, Suzuki M, Suzuki T, Hirano H: "GLUT1 glucose transporter in the lactating mammary gland in the rat." Acta Histochem Cytochem. 30. 623-628 (1997)
• [文献書誌] Osaki T, Yamaguchi H, Taguchi H, Fukuda M, Kawakami H, Hirano H, Watanabe S, Takagi A, Kamiya S: "Establishment and characterisation of monoclonal antibody to inhibit adhesion of Helicobacter phlori to gastric epithelial cells." J Med Microbiology. (in press). (1998)
• [文献書誌] Okada T, Hirano H, Takahashi K, Okamura Y: "Distinct neuronal lineages of the ascidian embryo revealed by expression of a sodium channel gene." Developmental Biology. 190. 257-272 (1997)