本研究成果は以下の6項目にまとめられる。カルシウム信号系について、受容体刺激から放出に至る過程を様々なレベルで解析した。1)ほ乳類小胞体(ER)管腔内カルシウムによる小胞形成の制御:ER標本に膜容量測定法を適用し、カルシウム濃度依存性に小胞体膜容量が増減することを見い出した。小胞体カルシウム濃度減少により、小胞形成は促されると考えられる。2)膵腺腺房細胞カルシウム放出機構における小胞体イオンチャネルの役割:小胞体イオンチャネルのリストを作成し、とりわけ、maxiカリウムチャネルとClチャネルのカルシウム放出機構への影響を調べた。両者が存在しないと、カルシウムを小胞体内に維持することができない。3)小胞体maxi-Kチャネルの小胞体間カルシウム分配:Maxi-Kチャネルの特異的ブロッカーであるイベリオトキシンを細胞内に負荷し、かつカルシウム情報系を活性化することで、小胞体間カルシウム輸送にmaxi-Kチャネルが関与することの示唆を得た。4)肝細胞小胞体に存在する大きな陰イオン性チャネル:肝細胞小胞体に250-300pSほどの陰イオン性チャネルを同定し、その膜電位依存性活性化・不活性化機序を調べた。脱および過分極両方向性に、60mV程度以上の電位にて顕著な不活性化が観察された。5)膵腺腺房細胞ACh受容体での膜電位依存性過程:ムスカリン性カルシウム信号において、受容体レベルでの膜電位依存性をGタンパクとの関連において調べた。低親和性受容体のとき、すなわち、Gタンパクとの連関低下にともない、受容体とAChの結合は電位依存性を強めることが解った。6)CD38ノックアウトマウス膵腺腺房細胞でのカルシウム信号:CD38はサイクリックADPリボースの生成酵素である。無サイクリックADPの状態でACh受容体刺激を行った。サイクリックADPはカルシウム振動応答の一部を担うことが示唆された。
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