本研究では、第一に、培養ラット大動脈平滑筋細胞に周期的な伸展刺激を加えた際(イワキガラス・FLX-SYSTEM細胞伸展装置使用)、(1)細胞内にストレス応答蛋白キナーゼの一つ、Jun-N末端キナーゼ(JNK)の活性化がひきおこされること、(2)これは、伸展刺激により平滑筋からATPが放出され、これがオートクリンのメカニズムにより平滑筋自身の細胞膜上のP_2プリン受容体を活性化することにより生ずること、を見い出した。JNK活性測定は、免疫沈降-in vitroキナーゼ測定(恒温振とうかくはん機、タイテックPR12使用)ならびに抗活性化型JNK抗体によるウエスタンブロット(電気泳動用電源、アトークロスパワー1000使用)の両方により行なった。さらに、伸展刺激によるATP放出とJNK活性化は、いずれも、細胞内サイクリックAMP(cAMP)上昇により完全に抑制された。外来性のATP添加によるJNK活性化も細胞内cAMP上昇により強力に抑制されたことから、cAMPは(1)伸展刺激によるATP放出と(2)P_2受容体を介するシグナリングの少なくとも2つの部位で機械力受容機構に調節作用を及ぼしていることが明らかとなった。 上記から、伸展刺激によるATP放出反応が機械力受容において重要な役割を担っていることが明らかとなった。現在、ATP放出の阻害薬をスクリーニングしている。この結果に基づき、ATPトランスポーターの実体を解明したい。 また、JNK活性化をメディエイ卜するP_2受容体のさらなる理解のため、我々のクローニングした新規P_2受容体(P_<2Y6>)発現細胞株を樹立し、アゴニスト・アンタゴニスト活性を有する化合物をスクリーニングしている。現在までのところ、2種類のアゴニストを見い出しているが、アンタゴニストは見い出せていない。
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