胎生期のラット心室筋細胞を用いたパッチクランプ法による検討では、内向き整流性K(IK1)チャネルを構成するイオンチャネルは、成熟ラットと異なり、幾つかの異なる単位伝導度を示す。この伝導度の多様性は発達に連れ失われてゆく。このことは、1種類のIK1チャネルが幾つかのサブチャネルにより構成されていて、胎生期にはその協同性が未成熟のため、サブチャネルが独立に開口しやすくなっていると予想された。そこで、IK1チャネルの遺伝子を胎児心室筋よりクローニングし、その機能を解析することにより単位伝導度の多様性について検討することにした。検出されたIK1チャネル遺伝子はKir2.1とKir2.2の2種類であった。それぞれの遺伝子の塩基配列は、これまで他の組織で報告されたそれぞれの遺伝子の塩基配列と相同性の高いものであった。カエル卵母細胞を用いた再構成実験では、Kir2.2はKir2.1の3倍程度大きな単一伝導度を示すKチャネルを発現した、一方、胎生中期(胎生12日)と胎生後期(胎生18日)遺伝子発現量を定量的PCR法にて比較すると、Kir2.2は胎生後期に17倍に増加するが、Kir2.1は僅かにしか増加しなかった。したがって、胎生中期には2種類のIK1チャネルが同程度活動しているのに対し、発達に連れKir2.2が優勢になり、ほぼ1種類の単一伝導度のみが観察されるようになると解釈できる。すなわち、胎生期でのIK1チャネルの多彩な単位伝導度はサブチャネルのためではなく、2種類の異なるチャネルが同時に発現しているためであると結論された。
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