平滑筋細胞の自動運動発現機序を研究する目的で、モルモット胃平滑筋を用い研究を開始したが、平滑筋細胞同士のギャップ結合を介する興奮伝達が非常に重要であることがわかってきたので、その研究も行った。ギャップ結合の研究はモルモット小腸壁に分布する小動脈血管を用いて研究した。 モルモット胃体部平滑筋の自発活動は縦走筋、輪走筋、間質細胞で異なっていた。輪走筋のみの標本では、微小脱分極反応(数mV)が観られ、その頻度は脱分極により増加した。周期的に20-25mVの緩電位が現れ、これらはいずれもニフェジピンで抑制されなかったので電位依存性Caチャネルを介さないと考えた。緩電位は細胞内電極により通電して膜を脱分極させても誘発されたが、再現性ある反応を誘発させるには20秒以上の間隔が必要で、このことは緩電位を発生するイオンチャネルは非常に長い不応期をもっていることが推定された。また電気的に脱分極させると緩電位発生には非常に長い(約1秒)潜時がみられた。細胞内Caイオン濃度をBAPTAなどで低下させるとこれらの反応は非常に発生しにくく、またCPAなどで筋小胞体からCaイオンを枯渇させると緩電位は発生しなくなった。そこで、緩電位は膜の脱分極により未知の機構により筋小胞体から遊離されたCaイオンが膜の未知イオンチャネルを活性化し、発生すると考えた。膜の未知イオンチャネルについては、その後更に研究を継続している。 18β-glycirrhetinic acid(GA)はギャップ結合を遮断するといわれているので、細動脈血管を用いてGAの効果を調べた。平滑筋細胞間はギャップ結合で電気的に連絡しているが、血管では平滑筋と内皮細胞との間にもギャップ結合があることが知られている。そこで実験は内皮細胞と平滑筋細胞の連絡について調べた。細動脈では内皮細胞の興奮は平滑筋に伝搬し、またその逆方向にも伝搬することがわかった。GAはこれらのギャップ結合を非選択的に遮断することが判明した。そこでGA処理により単離した内皮細胞あるいは平滑筋細胞を酵素処理をしなくても作成できることが判明した。GA処理した血管では内皮細胞依存性過分極反応は平滑筋でのみ消失した。この血管ではアセチルコリンで内皮細胞内Caイオンは増加し、平滑筋は過分極したが、GAの作用から、過分極因子(EDHF)を考えなくても膜反応を説明できることが解った。
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