体内時計を司る視交叉上核の神経核にはアストロサイトの骨格タンパク質であるGFAP(glial fibrillary acidic protein)が非常に高密度に発現している。実際GFAPの機能を止める薬物を投与すると、体内時計機能が低下したと言う報告もある。平成9年度は体内時計が存在する視交叉上核にGFAPが存在する事を確認した。体内時計遺伝子であるper遺伝子の発現はグリアではなく神経に発現している事が、以下の我々の研究結果から示唆された。すなわち、per遺伝子が多数発現している小脳の顆粒細胞をグリア細胞が極力増殖しない状態でプライマリーカルチャー系で培養しも、per遺伝子の発現は明瞭に見られる事が分かったからである。したがって、GFAPも生理学的には余り主作用的な働きをせず時計遺伝子発現を補助的に助ける作用があるものと推察された。平成10年度は、GFAPのノックアウト動物を使用し、サーカディアンリズム機構にどのような影響が出現するかについて調べた。明暗飼育条件下での活同量ならびに活動パターン、さらに恒暗条件下のサーカディアンリズムのフリーラン周期を調べた結果、ワイルドタイプとノックアウトの間には差は見られなかったことから、恐らく体内時計の発振そのものにはGFAPは関与していないものと思われた。一方、恒常明条件下で飼育すると、そのサーカディアンリズムは消失しやすくなることから、GFAPはリズム形成に必要な細胞間カップリングに係わっている事が明らかとなった。また、このノックアウト動物の縫線核のセロトニン神経活性を、セロトニンならびにその代謝産物をHPLCで測定する事により調べた。その結果ミュータント動物ではセロトニンの代謝回転が低下した。このように、GFAPノックアウト動物はセロトニン関連化合物による体内時計の位相変位作用にも異常をきたす事が分かった。本研究結果はセロトニン神経が関与しているうつ病、睡眠覚醒リズム障害など、体内時計の不調のモデル動物としてGFAPノックアウト動物が有用である事を示唆した。
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