研究概要 |
本研究では、D-体のアミノ酸が興奮性アミノ酸受容体のアロステリック作動薬として作用すること、またレニン結合蛋白質(Renin-binding Protein,RnBP)が血圧調節に密接に関連しているレニンの活性を強く阻害することから、D-アミノ酸の代謝を司るD-アミノ酸酸化酵素(DAO)とレニン結合蛋白質を中枢神経系及び循環調節系の新たな生体機能調節因子として位置づけ、それらの機能と情報伝達機序に関して分子生物学的解析を行った。 (1)組織レニン・アンジオテンシン系におけるレニン結合蛋白質遺伝子の発現の検索 ブタ大動脈由来培養血管内皮細胞株は、10%FCS添加D-MEMでconfluent monolayerを形成し、蛍光標識Dil-Ac-LDLの取り込みが認められた。Northern blot法によりRnBP遺伝子の発現が、またRT-PCR法によりレニン遺伝子の発現が認められた。そこでアンジオテンシンII(AII)(1μM),TNF-α(50ng/ml),TGF-β(10ng/ml)添加後培養1〜3日のRnBP遺伝子の発現を解析した。その結果AIIでは1日後から著しい発現誘導が認められ、それは3日間持続した。TGF-βでも同様の傾向が認められたが、TNF-αでは形態の著しい変化に拘わらず、RnBP遺伝子の発現に顕著な変化は認められなかった。 (2)中枢神経系で発現されているD-アミノ酸酸化酵素の構造と、その発現調節機構の解析 培養細胞におけるDAO遺伝子の発現は、小脳のみならず大脳由来のグリア細胞でもDAOをコードするmRNAの発現が認められた。そこで動物脳組織にその存在が明らかとされているD-セリンのDAO遺伝子発現に対する効果を検討した。その結果、大脳皮質由来グリア細胞においては、30mM D-セリン添加後30分で有意の発現誘導が観察された。次に生後2、4、7、15、28日のDAO遺伝子の発現レベルを検討した。その結果DAOは、生下時から脳で発現しており、生後は経時的にその発現が変化し、成熟ラットの小脳では大脳の約10倍の発現レベルを示していた。さらに、これら大脳及び小脳で発現されているDAOmRNAの塩基配列を358bpにわたって決定したところ、既に報告しているマウス腎臓DAOmRNAと94.7%の高い相同性を示し、ブタ酵素の活性中心Tyr-224,Tyr-228,Arg-283も保存されていた。
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