研究概要 |
膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(MT-MMP)はヒト癌組織に高頻度に発現し、その発現レベルは癌の浸潤性、悪性度などと相関することから癌転移のキーエンザイムと考えられている。現在4種類のMT-MMPが知られているがなかでも最初に申請者らにより同定されたMTl-MMPが最も癌転移に密接に関与している。しかし、MTl-MMPは通常ではファイブロブラストなど間葉系細胞に発現し、癌をはじめとする上皮系細胞での発現機構は不明であった。本研究では犬腎上皮細胞由来MDCK細胞を癌遺伝子であるv-src,erbB2でトランスフォームすることによりMTl-MMPの発現を誘導することを見い出した。一方、MDCK細胞はコラーゲンゲル3次元培養によりHepatocyte Growth Factor(HGF)存在下に枝分かれした管腔を形成する。本実験はHGFの形態形成誘導能を示した最初の実験として注目されている。われわれはMTl-MMPがこの管腔形成に必須の役割を果たすことを明かにした。さらに阻害物質を用いた解析によりMTl-MMPの2つの機能、すなわちゼラチナーゼA活性化能と自身の細胞外基質分解活性のうち後者が管腔形成には重要であることを報告した。このようにMTl-MMPは上皮細胞の癌化、悪性化にともなって発現すると共に、形態形成にも関与することが明かとなった。これらの実験系を用いてMTl-MMPの発現と同調して発現する遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法などにより検索し、その結果を基に細胞浸潤、形態形成に関与する遺伝子を同定した。
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