研究概要 |
我々は1997年から3年間文部省科学研究費の助成を受け、これまで、特発性間質性肺炎の高癌化状態について研究した.まず臨床病理学的背景を検討し蜂窩肺部(改変気腔)の重要性を明らかにした.ついで,蜂窩肺部の化生上皮の病理形熊学的検討を行い,肺癌合併群の蜂窩肺部では扁平上皮化生の占める頻度が有意に高いことを見い出した.ところが,化生上皮については肺癌合併,非合併両群において異型度,K_i67標識率,p53腸性率に違いがみられなかった.次に遺伝子変化の集積が発癌過程の違いを反映している可能性に基づいて,通常肺癌と線維症合併肺癌の遺伝子異常を比較した.FHIT遺伝子異常には違いがみられなかったが,pI6遺伝子プロモーター領域のメチル化は通常肺癌に比較して線維症合併肺癌に多く認められた.そこで,改変気腔の扁平上皮化生巣のpI6遺伝子プロモーター領域のメチル化,K-ras遺伝子変異を検討したが,異常が集積しているという事実は認められなかった。これは,pI6遺伝子プロモーター領域のメチル化が癌発生の相対的後期に生じることを示している.また,この否定的な結果はむしろ、扁平上皮化生の頻度の上昇を来す体質的素因の違いが、肺線維症の高癌化状態の原因であることを示唆していると考えられた。この仮説を検証する目的で、ペンツピレンを中心とした発癌性芳香族炭化水素の代謝・解毒に関与する酵素遺伝子の多型性を検討した.肺癌を合併していない肺線維症例では、健常成人と比べて、代謝・解毒能低下型が有意に高率であり、少なくとも高癌化状態を定着させるため何らか体質的素困が存在していることが示された.今後,さらに化生上皮における遺伝子異常の解析,DNA修復酵素遺伝子多型を含めた体質的素因の検討の両面から肺線維症の高癌化状態の機構を解明する必要がある.
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