研究概要 |
本年度は,我々が確立したラット有機水銀中毒実験系を用いてアポトーシスの小脳内分布を検索するとともに,すべてのアポトーシスの細胞内情報伝達に関与していると考えられているInterleukin 1-βconverting enzyme(ICE)をラットでクローニングし,その発現状態を検討した.その結果,methyl-mercury chloride(MMC)投与によってラットで誘発される小脳顆粒細胞のアポトーシスには好発部位が存在し,小舌,中心小葉,上行小葉,虫部錐体の順に易損性が高かった.本現象は,ヒト水俣病でも観察されており,病巣分布の点からも本実験系が有機水銀中毒の良いモデルとなることが示された.また,MMC投与による小脳顆粒細胞のアポトーシス過程においてもICEの発現がmRNAレベルおよび蛋白質レベルで増強されていることが確認された. また,いかなるシグナルを解してMMCによる小脳顆粒細胞のアポトーシスが誘導されているのかを調べるために,数種のアポトーシス関連蛋白の発現についても併せて検討した.アポトーシスを誘導するシグナルとしては,Fas/Fasリガンドを介するもの,栄養因子(欠乏)とそのレセプターを介するもの,一酸化窒素によるものなどがある.その結果,Fas,神経型NOSの発現に変化はみられず,BDNFおよびtrkBの発現はむしろ増加していた.このことから,これら以外のアポトーシス関連物質がMMCによる小脳顆粒細胞のアポトーシスに寄与しているものと推察された.
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