研究概要 |
我々はratにmethylmercury chloride(MMC)を投与することにより誘発される小脳顆粒細胞層障害のモデルを確立した。このモデルを用いて最初に電子顕微鏡による観察、TUNEL法、電気泳動によるDNA fragmentationの検出等により、この障害がアポトーシスであることを確認した。さらに小脳顆粒細胞でのアポトーシスに好発部位があることも証明した。これらのアポトーシスの機序を分子レベルで解明するために、種々のapoptosis関連蛋白(BDNF,Trk B,Fas ligand,RIP,Akt,Bad,Bc1-2,Caspase9,Caspase3,CAS,TIAR)の発現をWestern blotにて検索した。またPurkinje cellの機能を反映している蛋白Calbindin Dの抗体を用いた免疫染色によりPurkinje cellの障害程度を評価した。さらにMMC投与によるrat脳での遺伝子の発現の変化の検索を行った。その結果apoptosis関連蛋白はMMC投与後24日目に変化しているものが多く、全体の傾向としては中毒初期ではapoptosisに関して抑制的に働くBDNF、Trk Bは増加しており、促進的に働くRIP、CAS、Fas ligand、Bad、Caspase9は減少していた。またCalbindin Dの染色性についてはMMC投与により差異は認めず、Purkinje cellは機能的にも保持されていることが示唆された。次にapoptosis発現初期のrat脳からRNAを抽出し、その後mRNAに精製した後、比較・検討を行った。その結果、発症時にup-regulateしている遺伝子およびdownregulateしている遺伝子が得られた。このうちapoptosisに関連している遺伝子としてはprotein kinase Cγ,insulin receptor substrate 2,interleukin 13,cyclophilin等が増加しており、これらの遺伝子はapoptosisに対して抑制的な機能を持っていた。 今回の解析からMMC投与rat脳において中毒初期に変動する分子としては、apoptosis関連蛋白ではapoptosisに対して代償性に機能していることが推察された。また得られた遺伝子の中には機能の未知の遺伝子が9個含まれており、今後MMCにおける脳障害において関連する重要な遺伝子が存在するものと考えられた。
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