研究概要 |
本年度はRETがん遺伝子導入トランスジェニックマウスに発生した色素性腫瘍の悪性化に伴って発現異常を示す遺伝子の解析を行った。まず良性段階の腫瘍と悪性化した腫瘍(悪性黒色腫)よりRNAを精製し、種々のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-1,MMP-2,MMP-3,MMP-7,MMP-9,MTl-MMP)およびそのインヒビター(TIMP-1,TIMP-2)の発現をノーザンブロット法にて検索した。これらの遺伝子のうち悪性化に伴って、MMP-9遺伝子の著しい発現増強とTIMP-2遺伝子の発現低下が生じることが判明した。この結果はin situ hybridization法および腫瘍の細胞抽出物を用いたウェスタンブロット法によっても確認できた。すでにわれわれは腫瘍の悪性化に伴って、RETがん遺伝子産物の発現増加とその下流因子であるMAPキナーゼの発現増加が生じることを報告したが、今回明らかにしたMMP-9とTIMP-2遺伝子の発現異常はRETの高発現に伴ったシグナル伝達異常によって誘導された可能性が考えられる。つぎにTIMP-2はMMP-2を活性化するMT1-MMPの機能を制御していると想定されているので、MMP-2とMT1-MMP遺伝子の発現をRT-PCR法にて解析したが、良性腫瘍と悪性腫瘍の間で両者の発現変化は特に認めなかった。さらにゼラチンザイモグラフィーにてMMP-2とMMP-9の活性化を調べた結果、悪性腫瘍ではMMP-9のみの活性化が生じていることが明らかになった。よってTIMP-2の発現低下はMMP-9の活性化に何らかの役割を果たしている可能性がある。
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