研究概要 |
赤痢菌の感染初期段階における感染分子機構を解明することは、細菌性赤痢発症の本態を理解する上でも、またその感染を初期段階で阻止する手段を講じる上でも重要であり、本研究では、赤痢菌の細胞侵入機構と細胞侵入後の菌の細胞間感染に必要な細胞内運動機構に各々焦点を絞り研究を実施した。 赤痢菌の細胞侵入機構の研究:赤痢菌の細胞への侵入には、本菌の分泌するIpaB IpaC,IpaD蛋白(Ipa蛋白)がa5blインテグリンに結合することが重要であることをすでに報告したが、この結合によりどのような細胞内シグナル伝達が活性化され最終的に菌の取り込みに必要なアクチン系細胞骨格繊維の再構成およびラッフル膜を誘導するかを解析した。その結果、(i)Ipa蛋白を休止期の細胞へ添加すると、細胞接着斑構成蛋白であるパキシリンやFAKのチロシンリン酸化とビンキュリン、a-アクチニン、F-アクチンが細胞内に凝集する。(ii)Ipa蛋白に対する当該細胞内反応はRhoにより制御されている。(iii)赤痢菌の細胞侵入に於いて出現するラッフル膜の誘導には、さらにType-III蛋白分泌装置よりVirA蛋白をはじめとする一連の分泌性蛋白が上皮細胞内へ注入されることが不可欠である。 赤痢菌の細胞内・細胞間拡散機構:本現象に係わる赤痢菌のVirG蛋白と宿主蛋白、特にアクチン系細胞骨格蛋白との相互作用を解析し以下の知見を得た。(i)VirG蛋白のアクチン凝集能に必要な領域は、本蛋白の菌体表層露出領域にあり、特にN-末端側のグリシン残基に富む領域が重要である。(ii)VirGの当該領域と結合する宿主蛋白として、ビンキュリンとN-WASPが同定され、その結合はいずれも細胞内赤痢菌から誘導されるアクチンコメットの形成に不可欠である。
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