研究課題/領域番号 |
09470082
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
ウイルス学
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
半田 宏 東京工業大学, フロンティア創造共同研究センター, 教授 (80107432)
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研究分担者 |
有坂 文雄 東京工業大学, 生命理工学部, 助教授 (80133768)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1998
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キーワード | 遺伝子治療 / 分子認識能 / 自己集合化能 / 細胞指向性 / ウイルスコンポーネント / キャプシドタンパク質 / ウイルス粒子様構造体 / ウイルスベクター |
研究概要 |
ウイルス学における基礎研究の成果や最新の遺伝子工学など発展によって、従来ヒトに対して有害であったウイルスを有益なものに改変することが可能になった。その結果、ウイルスはその特性を生かして生理活性物質の多量産生用ベクターや遺伝子治療のための遺伝子導入用ベクターとして実用化されている。しかしベクターとして現在利用されているウイルスは固有の性質を保持しており、それがベクターとして利点にもなれば、欠点にもなっている。そこで、より高度で、安全で、しかも精巧な遺伝子導入技術の開発を目的として、従来のウイルスベクター作製法を抜本的に改革して、ウイルスコンポーネントのみを利用することを考案した。本研究は、ウイルス粒子を構成するカプシドタンパク質やその改変体を遺伝子導入用キャリアとして開発することを目的とする。その理由として、カプシドタンパク質は、高度な分子認識能、自己集合化能に加えて、細胞指向性など遺伝子導入用キャリアの素材として極めて優れた特性を持っている。また、遺伝子工学的に改変したり、化学的に修飾することによりより優れた機能を付加することも可能である。 本研究成果は、SV40およびアデノ随伴ウイルス(AAV)のカプシドタンパク質を多量に発現する組換えバキュロウイルスを構築して、感染カイコ細胞内で本来のウイルスと同じサイズのウイルス様粒子(VLP)が形成される系を確立した。また、感染細胞からVLPを簡便に回収効率よく単離する技術を確立した。SV40粒子はVPlを主要とする3種類のカプシドタンパク質から構成されるが、VP1単独でVLPを形成する。VP1とVP2とVP3を共発現してもVLPは形成され、VLP中の組成比はVP1:VP2:VP3=10:1:1で、本来の粒子組成比とほぼ等しい。また、AAV粒子にも3種類有るが、量的に最も多いのはVP3である。しかし、VP3単独ではVLPは形成されず、VP2あるいはVP1とVP3の二つ以上を共存させないとVLPは形成されない。AAVとSV40の粒子形成機構は異なると思われるが、我々はこれに関して新たな知見を得た。AAVのVP3単独では細胞質で合成されてから核への移行が出来ないことを見出した。そこで、VP3にSV40核移行シグナル(NLS)を付加すると、核へ移行し、VLPを形成した。この発見はAAV粒子形成メカニズムの研究に一石を投じたもので、VP3単独でVLP形成能があり、しかも核内にVLP形成に必須な因子が存在することを示すものである。また、SV40と同様の機構でAAV粒子が形成されることを意味する。次に、精製VLPを試験管内で構成単位に解離し、その再構成系の確立を試みた。SV40のVLPを5量体まで解離して、再構成すると効率よくVLPが形成される。面白いことに、VLPに加えて桿状と本来の約半分の小さなVLPが形成されることを見出した。これら構造体の組成比は、再構成の反応条件によって異なる。これらの結果は、SV40粒子は単量体から5量体、次に5量体からVLPと階層的に形成されることを示唆する。さらに、5量体は3種類の異なる構造体を形成できるが、特定構造体を形成するには何かの要因を必要とすることを明らかにした。本研究によって、ウイルスカプシドタンパク質の高度な分子認識能を介しての自己集合化によるVLP形成および試験管内でのVLP構成単位の部分的解離・再集合化に関わる諸因子が解明され、組換えウイルスカプシドタンパク質を新規遺伝子導入用キャリアの素材として実用化するための基礎研究システムを確立することが出来た。
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