研究概要 |
Notch蛋白質は分子量300kDaの受容体型膜蛋白質で、リガンドであるDelta蛋白質を発現する細胞との機械的接触を介して情報伝達を行い、様々な細胞の発生や分化の過程での細胞運命決定に働いている。マウス乳癌ウイルスのLTR変異株により、BALB/cマウスに誘導されたT細胞性白血病細胞では、その約30%の検体においてNotch 1遺伝子の極めて限られた領域にプロウイルスの挿入が生じており、その結果、主に細胞内ドメインよりなる分子量100kDaの欠損型Notch 1蛋白質が高発現していた。またBALB/cに自然発症した乳癌においてもRetrotransposon,IAPの5'LTR-gag部分がNotch 4遺伝子の膜貫通部分をコードする領域に挿入され、IAPのGagとNotch 4の細胞内ドメインよりなる融合蛋白質が発現している例が発見された。恒常的活性化型であるこれらの欠損Notch蛋白質が伝達する細胞分化抑制シグナルがこれらの白血病や乳癌の誘導に重要な役割を果たしている事が明らかとなり、またNotch遺伝子群の細胞腫瘍化における作用点と作用機序は共通性が高い事も示唆された。これらのNotchシグナル伝達異常による発がんの分子機序を解析することを通じて、哺乳動物のNotch遺伝子群のシグナル伝達経路の解明と正常細胞におけるNotchの標的遺伝子の同定を行う事が期待された。Notch 4遺伝子変異の結果を、J.Virol.(73,6,1999,in press)に発表した。更にDBA2マウスに自然発症したT細胞性白血病より樹立された培養細胞株DL-3においては、マウス白血病ウイルス(MuLV)のプロウイルスの挿入により欠損型Notch 1蛋白質が生じ、Notch 1の標的遺伝子であるHES-1転写亢進が起きている事が判明した。この結果は現在投稿中である。
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