ある特定の遺伝子をマウス体内で誘導的に発現させる方法として現在までに樹立された系の中では、Cre-LoxP系を用いて誘導的にCreリコンビナーゼを発現させてLoxPによる遺伝子再構成を誘導する方法が、極めてバックグラウンドが低くその一方で高いレベルの遺伝子発現が誘導可能であり、最も優れていると考えられる。しかしながら、この系においてもどのようにしてCreを発現させるかが問題であり、これまでのところインターフェロン誘導性プロモーターを用いたCre誘導法があるものの、インターフェロンは免疫系その他に大きな変化を誘導するので、本研究のように免疫系を解析する場合にはあまり適切ではない。そこで、我々は、Creの誘導的発現法について検討を行った。Creとタモキシフェン反応性エストロゲン受容体とのキメラを作ると、タモキシフェン存在下でのみCreが活性化したが、タモキシフェンは水に親和性が乏しくマウス個体に用いるのには問題があると考えられた。そこで、タモキシフェンの化学的な修飾を行い、少なくとも3倍程度水溶性を向上させることができた。また、バクテリアのテトラサイクリンオペロンの転写調節系を利用したシステムによるCreの発現誘導系を樹立するために、テトラサイクリンオペレーター部位をβアクチンプロモーターの上流に挿入したレポーター遺伝子を作成し、負の転写調節因子であるKRABとの融合蛋白質の発現プラスミドとともにB細胞株と導入したところ、テトラサイクリンの有無によりレポーター遺伝子の発現が10倍以上増強することが明らかとなった。以上のような、エストロゲン受容体との融合タンパクやテトラサイクリンオペロンを用いた系でCreを発現することにより、優れた誘導的自己抗体遺伝子発現系を構築することができると考えられる。
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