研究概要 |
最近わが国では,肺がんを中心とした呼吸器系のがんによる死亡率の増加が一途を辿っており,これはタバコの煙や自動車の排気ガスに含まれる発がん性の化学物質,とりわけベンゾピレンやニトロピレンに代表される多環芳香族炭化水素(PAH)への長期暴露が主たる原因ではないかと考えられているが,その詳細は不明である.さらに,この様な発がん物質に長期間暴露されても,具体的には長期に渡って高度な喫煙を続けても全く肺がんに罹患しない者が多数居ることも事実である.この様な発がんの感受性差がいかなる宿主要因によりもたらされるかを明らかにするために,喫煙群における生活習慣,特に喫煙量,ビタミンEやβ-カロチンの摂取量,並びにPAH等の発がん物質の代謝に関与する薬物代謝酵素,特にシトクロムP450(CYP1A1),グルタチオンs-トランスフェラーゼ(GSTM1,GSTT),N-アセチルトランスフェラーゼ(NAT2),アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALAD2)の遺伝子多型とリンパ球DNAadductsの生成量(これはPAH等による遺伝子損傷のbiomarkerの1つと考えられている)との関係を解析した.その結果,PAHに暴露される喫煙群のリンパ球DNAadductsレベルは非喫煙群よりも有意に高く,且つこのレベルはCYP1A1とGSTM1の遺伝子多型性に影響され,特にGSTM1欠損でしかもCYP1A1のval/val型の喫煙者で特に高くなる傾向が認められた.また,喫煙群のDNAadductsレベルはβ-カロチン摂取量の多い人ほど低くなる傾向が見られた.喫煙群のリンパ球DNAadductsとビタミンE摂取量との関係については一定の傾向は認められなかった.
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