研究概要 |
ベンゾピレンに代表される多環芳香族炭化水素(PAH)に暴露されると体内で代謝活性化されその中間代謝物がDNAの塩基と共有結合し,いわゆるDNA adducts(付加体)を形成することが知られている.DNA adductsの体内レベルは生成と分解(修復)とのバランスの上に立っているがこのDNA adductsの増加は発がん,特に肺がんなどのリスクを高めると言われている.しかし,ヒトの末梢血からリンパ球DNAを抽出し,これに含まれるDNA adductsを検出してみると,同レベルのPAH暴露量と推定される対象者の間でも相当の個人差が認められる.そこで,この様な個人差が如何なる宿主要因によってもたらされるかを,特に2,3の薬物代謝酵素の遺伝子多型と関連させて検討した.その結果,以下のことが明らかとなった.(1)PAHへの暴露が高いと考えられる高度喫煙群やコークス炉作業者群におけるリンパ球DNA adductsレベルは対照群よりも有意に高く,且つそのレベルはCYPlAlとGSTMlの遺伝子多型性に影響され,特にGSTMl nullでCYPlAlval/val型の対象者において最も高い.(2)喫煙群におけるDNA adductsレベルはβ-カロチン摂取量の多い人ほど低くなる傾向がある.(3)N-acetyltransferase(NAT2)またはAldehydedehydrogenase(ALDH2)の遺伝子多型とリンパ球DNA adductsとの間には一定の傾向は認められない. これらの結果から,ヒトリンパ球のDNA adductsレベルは,多環芳香族炭化水素(PAH)類への暴露量の他に,遺伝要因としての薬物代謝酵素,特にCYPlAl,GSTMl等の遺伝子多型性の影響を受けることが明らかにされた.
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