本研究は、高脂肪食によって高脂血症となるマウスを用いて、セレン欠乏による過酸化脂質生成量や脂質代謝への影響、及びセレン欠乏マウスへの安定同位体セレン投与によるセレンの体内分布の解明、セレン酵素であるGPx活性及びPHGPx活性の経時的変化、さらにはこれらセレン酵素と脂質代謝との関連を明らかにし、疫学調査結果から得られつつあるセレンの生体内における防御的な役割のメカニズムを解明することを目的としている。 実験食としてKR酵母を主体としたセレン欠餌を作成し、そのセレン含有量について測定を行い、0.004mg/kg程度であることを確かめた。4週齢のICRマウスをこのセレン欠餌及びこの餌にセレンを亜セレン酸の形で添加したセレン充足餌(Se;0.4mg/kg)で4週間飼育し、各臓器中のセレン含有量が対象群にくらべ肝では約7%に、腎では約19%にまで減少するが、脳では52%までとセレン欠乏の程度が臓器特異的に違いが見られること、また、セレン欠乏餌を与えたマウスでは、セレン栄養状態の示標として一般的に測定される血清中GPx活性が対象群の18%にまで減少しており、飼育期間4週間において充分なセレン欠乏状態となっていることを確認した。また、HPLC-ICP-MS方による経時的な血漿中のセレン蛋白ごとの比較では、GPxよりもselenoprotein Pの方が減少の程度が緩やかで比較的後まで血液中に保たれることが明らかになった。 セレン欠高脂肪餌による高脂血症マウスでは、飼育後、エーテル麻酔下で採血及び解剖を行い、肝、腎、精巣、心、筋肉および大脳をサンプリングし、各組織中のGPx活性やセレン含有量の測定及び病理組織学的な動脈硬化度の検討を行っている。また、血液中では血清脂質値の測定を行い、高脂血症下における動脈硬化に対するセレンの防御的役割について検討を進めている。
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