調査対象は阪神大震災の被災地に住んでいたK大学生35人(うち女子16名)について脳波、瞬目、顔面表情筋、上腕筋、皮膚電気反射、心拍、指尖容積脈波、呼吸、サーモグラフィーによる皮膚温をそれぞれ導出して、ポリグラフで同時記録しながら自然音、種々の情動刺激音を与えた場合の、各パラメータの変化を解析した。その結果、脳波では情動刺激中アルファー帯域の周波数が減少して、ベータ帯域の出現率が増加した。筋電図でも刺激中は顕著な筋緊張増加がみられ、刺激内容に応じて顔面及び四肢の筋活動領域は異なった。呼吸、皮膚電気反射、心拍など自律神経系の反応指標も情動刺激に呼応して顕著な変化を示した。サーモグラフィーについては、安静時と各種情動刺激との間に有意な温度差が指摘された。PTSD(外傷後ストレス障害)の我が国での研究は、実質1995年阪神淡路大震災から始まったと言える。精神面の病理も心身症状の分析も経年的な今後の成果が俟たれる現状である。その中で今回のポリグラフを用いた精神生理学的研究は、我が国で最初の試みであり、PTSDの生体機構を解明するうえで、極めて有益な情報を提供したと言える。尤も従来のポリグラフ指標にサーモグラフィーを加えた生体指標は、画期的ではあるが、反応性の時間経過では、他の指標とかなり異なり、実験条件設定に幾つかの改良点が要求される。したがって今回の成果の詳細な検討は、今後の方法論確立にも不可欠で重要なものである。
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