胃粘膜細胞分化増殖機構を解明するため、胃粘膜に対する増殖活性を持つことが知られているガストリンに注目し、ガストリン刺激胃粘膜増殖の機序の詳細を明らかにすることが本研究の目的である。 ガストリンは、成体では胃前庭部と小腸粘膜の内分泌細胞G細胞で産生され、胃癌の前癌病変とされる萎縮性胃炎や、ガストリン産生腫瘍であるZollinger Ellison症候群は高ガストリン血症を呈し、粘膜上皮細胞の異常増殖が観察される。しかし胃粘膜でガストリン受容帯を持つ細胞は壁細胞と腸クロマフィン様(ECL)細胞で、粘膜上皮細胞は受容帯を持っていないと考えられていた。従って、ガストリンによる粘膜上皮細胞の増殖は、壁細胞やECL細胞にガストリンが作用し、その結果それらの細胞が産生する別の増殖因子によるものであると考えられてきた。 申請者らは長期間高血清ガストリン値血症を呈するトランスジェニックマウスを作成した。空腹時血清ガストリン値は正常マウスでは60〜100pg/mlであるのに対し、高ガストリン血症マウスでは600〜1200pg/mlと、上記疾患での血清ガストリン値に及ぶ高値を示した。申請者らは、高ガストリン血症下では粘膜上皮細胞にも^<125>Iガストリン結合実験で明らかにしうる量のガストリン受容体が発現していることを明らかにした。この結果は、ガストリンが粘膜上皮細胞に直接作用する可能性を示したものであった。さらに、胃粘膜上皮細胞培養系であるGSM06を用いた実験から、1)ガストリンはGSM06の増殖活性を更新させること、2)GSM06にガストリン受容体(CCK-B受容体)が発現していること、3)GSM06上のガストリン受容体の発現量は、ガストリン刺激により増強させること、を明らかにすることができた。以上の結果は、ガストリンによる胃粘膜増殖刺激の機序を説明する新たな知見であり、現在その詳細につき、更に検討中である。 なお、研究費交付決定後、神戸大学医学部第二内科青山助手が研究分担者として参加し、マウス解析に協力した。
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