胃癌の前癌病変であるとされる萎縮性胃炎を有する患者、胃酸分泌抑制剤服用者、H.Pylori感染者では高ガストリン血症が観察される。しかし、従来、長期間の高ガストリン血症が生体に及ぼす影響を詳細に観察しうる動物モデルは存在しなかった。本研究では、長期間高ガストリン血症となる動物モデルを新たに作成し、その胃粘膜細胞の分化・増殖に及ぼすガストリンの作用を検討した。 ヒト変異ガストリンcDNAを導入して作成した高ガストリン血症トランスジェニックマウスは、生後10週で空腹時血清ガストリン値500-1500pg/mlと、ガストリン値の著しい上昇を認めた。高ガストリン血症を確認したマウスは生後20週目に実験に供した。 酸を分泌する壁細胞、主細胞は、長期間の高ガストリン刺激により、細胞数の減少が観察された。このため酸分泌を刺激するガストリンが過剰に作用しているにもかかわらず、胃酸分泌量は、正常マウスとの間に差が見られなかった。また、主細胞の前駆細胞である副細胞の一部には、十二指腸粘膜細胞様のシアルムチンを産生するものが生じた。 胃腺頸部の増殖帯は、高ガストリン刺激により著しく増加し、その結果、胃粘膜は著明な肥厚をきたした。従来、ガストリン受容体は、壁細胞、ECL細胞に発現するとされていたが、本モデルマウス、および、培養胃粘液産生細胞を用いた実験からは、比較的未分化な粘液産生細胞にも、ガストリン受容体が発現していることが示された。 肥厚した胃粘膜細胞のほとんどは表層粘液産生細胞としての性質を有する細胞に分化したが、正常細胞に比して、分化度の低い表層粘液産生細胞となった。 以上より、長期にわたる高ガストリン血症が生体に及ぼす影響の詳細を今後さらに検討することは、各種胃病変および胃癌発症の病態解明に重要であると考えられた。
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