膵外分泌液中には、分泌型IgAが存在し、膵局所における免疫学的防御機構において中心的役割を担っていることが知られている。しかし、我々は、分泌型IgAのみならず、膵液中には多量の補体成分が存在し、IgAとともに局所免疫機構を構成していることを見出した。たとえば、ヒト膵液中のC3量は10-60μg/mlにも及ぶ。また、その他の補体成分C4やfactorBの存在も確認している。これらの、補体成分の産生部位を確認する目的で、さまざまの膵癌細胞株を用いて検討した。その結果、導管由来の膵癌細胞株のほとんどが補体成分を産生分泌しているが、腺房細胞由来の細胞株からの産生は確認されなかった。さらに、これらの補体成分の産生はIL-1β、TNF-α、IFN-γなどの炎症性サイトカインにより制御されている。即ちこれらの補体成分の産生は、膵局所の炎症に伴って、炎症細胞や間質の細胞から産生されるサイトカインにより巧妙に制御されている。すなわち、膵液中の補体成分の量的変化を検討することで、膵実質内の炎症の度合いを推測できる可能性が示唆される。我々はこれらの知見を確認するために、in situ hybridization(ISH)を施行した。膵組織におけるISHは非常に困難だが、これまでの結果では膵導管細胞に補体成分のmRNAを確認している。さらに、慢性膵炎などの組織と正常組織の比較では、慢性膵炎組織において補体成分mRNAの発現が増強している傾向を得ている。膵液中の補体成分の病変との関連についても検討中だが、慢性膵炎患者では膵液中補体成分の量が高い傾向があるものの、明らかな有意差を得るまでには至っていない。今後、さらに症例を重ねて、検討する余地が残されている。
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