研究概要 |
近年胃癌の発症にヘリコバクタ・ピロリ(HP)感染が関与している可能性が指摘されている。そこで本研究では胸腺摘除をしたBALB/cマウスにHPを感染させ、胃粘膜の炎症の程度を経時に観察するとともに、胃腫瘍の発症を観察することを目的とした。(1)生後3日目に胸腺摘除したBALB/cマウスでは高頻度にA型萎縮性胃炎を発症するが、本マウスにはHPが容易に生着する。(2)本マウスではHP感染後約3カ月目に腸上皮下生の発生が認められた。(3)本マウスでは6カ月目に約10%の確率で胃の腺腫が発症した。この発症はマウスにMNNGを投与することによって30%近くにまで上昇した。その際本胸腺摘除マウスでは、サプレッサーT細胞が減少し、その結果CD4(+)のCTLが増加しているが、胃腺腫を発症したマウスのCTL活性は、非発症例に比較して明らかに高かった。(4)本腫瘍の発症はプロトンポンプ阻害剤、ガストリン受容体拮抗剤の投与によって影響を受けなかった。(5)本腫瘍ではp53,Ras,TGFβ-RII、ミスマッチ修復機能等に異常は認められなかったが、c-fos,c-metの過剰発現が認められた。以上、胸腺摘徐BALB/cマウスにHPを感染させることによって胃腺腫の発症を確認した。しかし本マウスでは癌の発症はいまだ観察できていない。胃腺腫発症マウスのCTL活性は上昇しているが、これに基づく強い炎症が腺腫の発症を加速させた可能性が考えられる。本腺腫の発生に血清ガストリンは関与しておらず、また明らかな遺伝子異常は未だ見出せていない。今後は本腺腫の遺伝子異常についての検索が必要である。
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