研究概要 |
ヘリコバクタ・ピロリ感染による胃腫瘍発症の機序を解明する目的で、生後3日目に胸腺摘除したBALB/cマウスに生後2ヶ月でへリコバクタ・ピロリを感染させた。BALB/cマウスは免疫学的にTh2ドミナントであるために、ヘリコバクタ・ピロリを感染させても持続感染が成立しにくく、かつ炎症反応がほとんど生じないという特徴をもつ。しかし胸腺摘除マウスでは、生後3日目以降に形成されるサプレッサーT細胞機能が低下するために、その免疫能がTh2からTh1ドミナントへと変換されている。本マウスにヘリコバクタ・ピロリを感染させることによって以下のことが明らかとなった。1. 本マウスではコントロール(胸腺非摘除群)に比較して持続感染が容易に成立する。2. 本マウスでは感染後約3ヶ月目に腸上皮化成が生じ、さらに6ヶ月目には約10%の確率で胃腺腫が発生した。3. ただ2年を経過しても胃癌の発症は1例も認められなかった。4. しかし6ヶ月目には約70%の確率で胃MALTリンパ腫の発症が認められた。5. さらに1年以上を経過した例では約30%に胃体部にECLカルチノイド腫瘍の発症を認めた。そこでその時の血中ガストリン値を測定したところ、カルチノイド発症例では1450±96pg/mlと非感染群、カルチノイド非発症群に比較し有意に高値であった。さらに特異的なガストリン受容体アンタゴニストAGO41R投与群ではカルチノイド発症は一例も認めたなかった。また本カルチノイド腫瘍にはガストリン受容体遺伝子、並びにmenin,reg遺伝子が発言していた。興味深いことに、これら胃MALTリンパ種、胃腺腫、胃カルチノイドは重複しては発症しなかったが、ヘリコバクタの菌量及び血清ガストリン値はそれぞれで異なっており、また胃粘膜のCD3T細胞の比率も異なっていた。以上のように同じ筋腫で異なった病態が生じる理由は明らかではないが、宿主の産分泌やホルモン分泌能、免疫反応の差などが関与しているものと想定された。
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