研究概要 |
私達は新規遺伝子を仮にTRと命名している。TRcDNAをCOS7細胞に一過性に導入すると、その培養液上清にTR蛋白の放出がwestern blotにて観察された。放出された蛋白質の分子量45kDaから、TRは膜貫通領域からN端で分解を受け細胞外に放出されるものと思われる。TRには糖鎖付着部位が想定されたのでレクチンカラムを用いてTR蛋白質の精製を試みたところ、COS7培養液上清中のTRはConAアガロースに吸着され、溶出が可能であった。大腸菌にて作製したGST-TRのEGFドメイン、follistatinドメインに対するモノクローナル抗体を用いて更にTRの精製を試みた。ConA溶出液をEGFドメインに対するモノクローナル抗体2H11で精製すると、約39kDaのTR蛋白質が抗体カラムを通過し、45kDaのTR蛋白質が2H11カラムから溶出された。一方、follistatinドメインに対するモノクローナル抗体2H8を用いると、39kDa,45kDaの2種類のサイズのTR蛋白質がこの抗体カラムから溶出されることから、TRはEGFドメインとfollistatinドメインの間でも分解されることが示唆された。このことを確認するため、TRcDNAのfollistatinドメインからなるcDNA、及びfollistatinドメイン+EGFドメインからなるcDNAをCOS7細胞に一過性に導入したところ、培養液上清にそれぞれ39kDa,39kDa+45kDaのTR蛋白質が放出されたことからTRはfollistatinドメインとEGFドメインの間で蛋白分解を受けることが確認された。TR発現COS7細胞培養液上清のConAカラム、抗体カラム溶出液を用いて各種細胞に対するDNA合成能を検討したところ、EGFドメインの有無に関わらず、TRはMKN-1胃癌細胞株のDNA合成能を抑制する一方、ミンク肺上皮細胞(Mv1Lu)のDNA合成を刺激した。これら部分精製TRはMKL-1胃癌細胞、Mv1Luミンク肺上皮細胞のMAPkinase活性を刺激したが、erbB2リン酸化は刺激しなかった。そこで更にTRの精製を進め、ConAカラム、抗体カラム溶出液をイオン交換カラムを用いて精製した。TRはMonoQカラムにて溶出されたが、溶出液のMKN-1胃癌細胞株、Mv1Luミンク肺上皮細胞のDNA合成能はwestern blotで観察されるTR蛋白質のピークに一致せず、TRの観察されないフラクションにおいてもDNA合成能が観察された。私達は更にTRの精製を進め、精製TRがこれら細胞のDNA合成を刺激するか検討中である。
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