私達は酸や壊死惹起物質から胃粘膜が保護され恒常性が維持される上で胃粘膜上皮の増殖や分化による細胞回転が重要と考え、従来より増殖因子の胃粘膜上皮に対する作用を検討している。私達の一連の検討やその他の多くの報告から、胃粘膜上皮の増殖や分化にはepidermal growth factor(EGF)を代表とするEGFファミリー増殖因子や、その受容体のEGF受容体及びEGF受容体と2量体を形成するerbB2、erbB3、erbB4の重要性が明らかとなりつつある。本研究の目的はしたがって、胃粘膜においてEGF様構造を有する新たな増殖因子・分化因子の存在を想定し、そのcDNAのクローニングと新規因子の作用解析を試みることである。 種々の検討の結果、私達は胃粘膜線維芽細胞からEGF様構造1ヶ所とfollistatin様構造2ヶ所を有する新規蛋白質のcDNAをクローニングすることに成功した。私達はこの新規蛋白質をtomoregulin(TR)と命名し、これまで(1)TRは消化管粘膜固有層及び粘膜下の間葉系の線維芽細胞に発現する(2)TRはfollistation、 EGFドメインから成る細胞外ドメインが蛋白分解をうけて放出される(3)精製TR細胞外ドメインは胃癌細胞株MKN28、erbB4発現CHO細胞のerbB4チロシンリン酸化を刺激することを見出した。 これら一連の検討は、消化管粘膜における間葉系と上皮細胞の相互作用が上皮細胞の増殖には重要であること、及びEGF様増殖因子の1つとして私達が同定したTRが一定の作用を有する可能性を示唆している。
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