研究概要 |
ヒト細胞が無限に増殖するためにはテロメラーゼが活性化する必要がある。この活性は、生殖細胞、不死化した癌細胞とある種の幹細胞および末梢血リンパ球に存在し、殆どの正常体細胞には存在しない。癌細胞のテロメラーゼ活性を阻害することは、多くのヒト悪性腫瘍に有効で正常体細胞に対して副作用の少ない抗癌戦略となることが期待される。 1. 各種癌細胞株におけるテロメラーゼ活性の抑制効果をみるため、テロメラーゼRNA部分(hTR)及びcatalytic domain(hTRT)に対する相補的配列をもつpeptide nucleic acids(PNA)を作製し、テロメラーゼ活性を持つ癌細胞株、HeLa,LoVo,A549,SW403,VMRC-LCDに添加培養後テロメラーゼ活性を測定したが、活性に変化はみられずPNAの移入効率向上の必要があった。 2. サイトメガロウイルスのプロモーターによってhTRTの塩基配列に対するアンチセンスRNAを発現するアデノウイルスベクターを構築し、前述の癌細胞株に感染させ生細胞率とテロメラーゼ活性を測定した。LoVo,VMRC-LCDにおいては生細胞率の低下がみられたがテロメラーゼ活性はどの細胞株でも低下せず、組み換えアデノウイルスの構造の改善が今後の課題として残された。 3. 正常体細胞に対して副作用の少ない抗癌戦略として癌胎児性抗原(CEA)のプロモーターで自殺遺伝子を発現するアデノウィルスベクターを構築し前述の癌細胞株に感染させたところ、CEA産生癌細胞株LoVo,A549に選択的な細胞毒性がみられ、腫瘍選択的プロモーターの使用はテロメラーゼ活性抑制との併用でさらに正常体細胞に対して副作用のより少ない抗癌戦略になりうると考えられた。 今後の研究継続により、従来の治療では予後の改善が得られなかった治療抵抗性の肺癌に対する全く新しい治療戦略となることが期待される。
|