筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、今日までその原因が充分には明らかにされていない進行性難治性筋疾患である。ALS発症者の5-10%は遺伝性で(FALS)、1993年には細胞質内の活性酸素消去機構であるCu/ZnSOD(superoxide dismutase)遺伝子に点突然変異が見い出されてきて、これが一部のFALSの原因遺伝子であることが強く推定されるに至った。 初年度以降の研究により日本人の家系を用いた研究によって8家系のCu/ZnSOD遺伝子に、白人家系にはまだ報告のないCu/ZnSOD遺伝子の7つの異なった異常を見い出した。異なった遺伝子変異は、それぞれに特徴的な臨床所見を示しており遺伝子変異と臨床的特徴の関連が注目されている。次年度以降は、Cu/ZnSOD遺伝子変異による蛋白チロシン残基のニトロ化が運動ニューロン死のメカニズムに深く関与していることを明らかにした。ついで脊髄運動神経細胞の生と死のシグナルバランスの分子病態異常についても世界ではじめて明らかにした。さらに変異SOD導入トランスジェニックマウスにおいて、症状の発現している萎縮筋肉に大腸菌LacZ遺伝子を発現させることに成功し、治療遺伝子候補となる神経栄養因子GDNFを組み込んだアデノウイルスベクターを脊髄腔内および筋肉内に注射し、治療効果を検討した。このように本病の分子病態解明と治療法確立のための基礎的検討を行い、本研究の3年間の総括研究目標は達成できたものと考えられる。
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