研究概要 |
目的)ヒトは、他動物に比し、血清コレステロール値が高く、加齢と共に動脈硬化病変が形成される。しかし、一旦形成された動脈硬化症の退縮を目ざした有効な治療法は報告されていない。我々は、NO合成酵素の遺伝子導入法を検討した。方法)eNOSとiNOSのcalmodulin結合能の違いに着目し、これを欠失したミュータントを用い分子レベルで活性を制御する事を考えた。eNOSのみならず、ONOO-の細胞障害性のために、悪者とされるiNOSにも着目し、双方を遺伝子導入する事を試みた。非増殖型アデノウィルスベクターを用いる事とし、上記の各遺伝子を導入した。進行動脈硬化病変は、家兎を用い、腹部大動脈をバルーン擦過し1%コレステロール食を負荷し全周性に病変を形成した。血管内超音波検査を施行した後、螺旋状血流保持カテーテルを大動脈内に留置し、遺伝子導入を行った。結果)1)非増殖型アデノウイルスベクターを作製し、eNOS,iNOSのcDNAを組み込んみ、eNOS,iNOSのin vivoでの投与方法を確立させた。2)eNOS,iNOSそれぞれに構造機能解析を用いてcalmodulin結合部位を有しないミュータントを作製した。3)上記の方法で、進行動脈硬化病変を形成し、遺伝子導入を行った。血管内超音波検査を施行し、病変を確認した後、1)、2)で精製したアデノウィルスベクターを血流保持カテーテルにより導入した。導入後、3-7日後に屠殺し、病変退縮度を形態及び免疫組織学、血管反応性より評価した.eNOS,iNOS同時投与にて興味深い結果を得たが、完全な退縮病変は認められなかった。結論)近年、抗高脂血症薬等で心血管病二次予防効果、冠動脈のNO分泌反応の改善が報告されたが、詳細な機構は解明されていない。本研究は、eNOS,iNOS双方に注目し、退縮における役割を検討したものである。免疫電顕を用いた検討からは、NOSの細胞内活性化機構等の更なる分子生物学的アプローチにより一層有効な退縮病変が期待される。
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