心肥大の発症・進展には、心筋細胞における変化だけでなく、線維芽細胞の増殖やそれに伴う細胞外マトリックスの増加や線維化が認められ、心筋細胞と非心筋細胞のクロストークの意義が注目されている。我々は、心筋細胞と非心筋細胞をほぼ100%分離培養し、心筋・非心筋細胞の単独培養系及び共培養系を確立した。この系を用い、液性因子であるエンドセリン-1(ET-1)、カルディオトロピン-1(CT-1)さらに、細胞外マトリックスであるファイブロネクチン(Fn)の心肥大での役割を検討した。 ET-1とCT-1は、培養系においては主として非心筋細胞で分泌され心筋細胞に働いて心筋肥大を惹起する、パラクライン因子であることを受容体拮抗剤あるいは、中和抗体を用いて証明した。 しかしながら、CT-1とET-1で引き起こされる心筋肥大のパターンは異なっており、CT-1は長軸方向に細長く肥大させるのに対してET-1は縦横比がほぼ一定の肥大させる。また、肥大のマーカーであるANP・BNP分泌を検討するとET-1と比べCT-1はBNPをより選択的に分泌亢進させることを明らかにしそれがmRNAの安定化より転写を亢進させた結果であることをRun-onアッセイで証明した。 Fnに代表される細胞外マトリックスは従来心臓においては心臓の拡張能を低下させる受動的な存在として考えられていたが、我々は本研究で能動的にFAKを介して心筋細胞内に情報を伝達し心筋細胞肥大に関与している可能性を示し、心筋細胞と非心筋細胞とのクロストークに液性因子だけでなく細胞外マトリックスもその言語として働いていることを証明した。 以上、心肥大発症・進展における液性因子あるいは細胞マトリックスを介した心筋-非心筋細胞のクロストークの重要性が示唆された。
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