研究概要 |
ヘパリン結合性増殖因子誘導性血管新生を抑制する方法は癌や慢性関節リウマチの治療の可能性がある。本研究でわれわれはオリゴ核酸がその薬剤として利用できる可能性を追求した。本研究の理論的背景は、フォスフォロチオエート修飾型(S化)オリゴ核酸が強い陰性荷電を持ち、ヘパリン結合性増殖因子が強い陽性荷電を持つことより両者に強い結合が生じ、bFGFやVEGFが血管内皮細胞上の受容体との結合を阻害する特性を利用すると同時に、細胞内に取り込まれたアンチセンスオリゴ核酸が塩基配列特異的遺伝子発現抑制効果を発揮する作用を利用するというアイデアである。平成9年度は血管新生抑制効果の報告があるVEGF,bFGF、EGF,NF-kBそれに血管新生に関与しない数種類の分子のアンチセンス、センスオリゴ核酸をS化と非修飾型(d型)にして合成し、bFGFとの結合能を解析した。その結果、塩基配列非依存的にS化核酸のみbFGFと結合し、S化しても二重鎖核酸では結合できないことを明らかにした。平成10年度にこの効果をマトリゲル上の血管内皮細胞管腔形成能に対する抑制効果を用いて検討した。その結果、bFGF存在下の血管新生は塩基配列に関係なくS化オリゴ核酸で抑制効果が認められた。次に家兎眼球FGF注入法による血管新生誘導モデルを利用した。その結果、S化オリゴ核酸は全てbFGF誘導性血管新生抑制作用を示したが、最も強い抑制効果を示したものはS化アンチセンスbFGFオリゴ核酸であった。また、GGGG配列を有するアンチセンスNF-kBオリゴ核酸も強い血管新生抑制効果を示した。平成11年度はアルビノラットに光連続照射した際の網膜破壊をヘパリン結合性増殖因子が防御する実験系を利用した。その結果、オリゴ核酸を点眼にて投与しても網膜まで作用し、bFGFによる光刺激網膜破壊抑制効果をS化アンチセンスbFGFオリゴ核酸が最も抑制した。次にS化アンチセンスVEGF,NF-kB、さらにS化センスオリゴ核酸も部分的抑制が認められた。しかしd型は全く効果が認められなかった。以上3年間の研究により、in vitroでは塩基配列非特異的にS化オリゴ核酸でbFGF誘導性血管新生が抑制されるが、in vivoでは塩基配列非特異的S化オリゴ核酸作用に加え、塩基配列特異的アンチセンス効果が加わることが解明できた。今後両者の作用を合わせもつオリゴ核酸の分子設計が強力な血管新生抑制遺伝子薬剤になることが予想される。
|