アンジオテンシンII(AngII)受容体には全く異なる細胞内シグナルを持つ1型(AT1)、2型(AT2)が存在する。AT1は心血管系に主に存在し、血管収縮・陽性変力といったAngIIの古典的心血管・増殖作用を伝達する。AT2の成人心血管系での存在量は少なく生理作用は不明な点が多いが、Ca^<2+>やK^+チャネルの修飾や増殖シグナルを抑制し抗AT1作用を発揮するとされる。私達はAT1・AT2の心血管系過剰発現トランスジェニック(TG)マウスを用いて個体レベルでの生理作用を初めて明かとした。1)AT1心筋過剰発現トランスジェニックマウス(TG)α-myosin heavy chainをプロモーターに用いて作製したTGでは、洞停止や洞房ブロックによる高度な徐脈性不整脈により胎生後期・新生児期で全てが死亡した。新生児TGの心房重量は約3倍増加していた。心房組織線維化は強くなく、心房細胞の胎生期増殖が考えられた。2)AT2心筋過剰発現トランスジェニックマウスAT1・TGと同じプロモーターに用いてAT2・TGを作製した。1)正常に誕生し生後の発育・心筋重量・心筋組織構築は正常であり、不整脈・伝導障害も認めなかった。2)心房・心室に野生型では検出できないAT2がAT1量の約40%発現していた。3)TGの覚醒下基礎血圧・心拍数は野生型と差はなかったが、生理濃度のAngII注入後の血圧増加は有意に抑制され、心拍数変化は著しく低下していた。4)Langendorff単離心筋でもAngII注入後の心拍数増加はTGで低下していた。佐室収縮性(dp/dt max)は野生型・TG間で差はなかった。6)AngII注入後に増加する単離心筋でのMAP kinase活性はTGマウスで低下していた。3)まとめAT1は血管収縮・陽性変時・変力作用を介して血圧調節・心調律や細胞増殖促進効果を持つことが個体レベルで確認された。心筋でのAT2過剰発現は心収縮能に影響せずに、AT1による昇圧作用に対抗した。これにはAT2を介する陰性変時作用に起因する心拍出量増加抑制御効果が関与し、これがAT2欠損変異マウスで見られた血圧上昇・AngIIに対する過剰昇圧・基礎血圧上昇機構の一因となる可能性が示唆された。
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