研究概要 |
肺血流増加を伴う先天性心疾患に合併する肺高血圧症は、従来、圧力負荷により血管が障害されるとされてきたが、本研究の結果は血管内皮細胞は肺高血圧症が高度に進展するまで正常機能を保っている事を示すものである。近年注目されている血管作動性物質の不均衡は血管内皮細胞を取り囲む複合的物理環境の変化と血管自体の物理特性の変化によってもたらされている可能性がある。我々は本研究計画に基づき下記の結果を得た。 1.ずり応力、伸展張力、圧力を単独及び同時負荷できる装置を新に開発し、この装置を用いた検討により、各応力の単独負荷と同時負荷でET、NOSの遺伝子発現応答が異ることが示された。ET,NOSともにずり応力増加に対しては血管拡張性に発現調節される。ETに関しては低ずり応力の場合に限り、圧力負荷に対して血管収縮性に発現調節されることが示された。 2.ずり応力に対するET遺伝子発現のサイレンサーがNFκB配列であることを示し、さらにET遺伝子の転写調節に関わるずり応力応答配列と圧力応答配列が異る部位に存在することが明かとなった。本研究は血管内皮細胞が物理的応力の方向性を検知し、独立した情報伝達系路を持つ可能性を示した。 3.先天性心疾患に対しするシャント手術には動脈系の拍動流または静脈系の定常流で肺血流を補う術式が存在する。本研究ではこの拍動性が血管内皮細胞に与える影響を検討した。その結果ET、NOSの遺伝子発現応答に関しては拍動性よりも平均内圧と平均流速により反応が規定されることが示された。シャント血流の特性としては低圧で高流速が良いことが推定され、本研究はNO吸入療法を始めとする血管拡張療法の優位性を示す根拠となりうると考えられる。 4.心臓カテーテル検査で得られた肺動脈拡張期圧波形からWindkessel modelを応用し肺動脈コンプライアンス(Cp)を算出しASD症例、VSD症例、VSD/PH症例で比較検討した。CpはPH群で有意に低値を示した。VSD/PH群の術後、肺血管抵抗は高値を持続したが、Cpは正常化を認めた。本研究は血行動態に応じて血管のリモデリングの指標としてCpが有効であることを示した。
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