ジストロフィン遺伝子からは、多種のプロモーターと多様な選択的スプライシングにより多くのジストロフィンの分子種が産生されてきている。しかし、ジストロフィン遺伝子が極めて巨大な遺伝子であり、全構造が未だ解明されていないことから、さらに未知の分子種の存在が強く示唆されている。本研究では、ジストロフィン遺伝子の新しい分子種を解明するために、ジストロフィン遺伝子から転写されて産生されたmRNAを逆転写酵素(RT)PCR法を駆使して解析した。その結果、今までジストロフィン遺伝子の巨大なイントロンと考えられていた配列の中に新しいエクソン領域が存在することを見い出した。すなわち、イントロン2とイントロン3の配列の中にそれぞれエクソン配列が存在し、これが時に正規のジストロフィンmRNAに挿入されているのが発見された。イントロンの配列の中に存在するこの2つの配列は一次構造的にはエクソンの構造を保持しているにもかかわらず、正規のジストロフィンmRNAに組み込まれていることは稀であった。今後、今回クローニングできたエクソンにコードされている新しいジストロフィン分子種についてその病態的意義を明らかにする予定である。 また、拡張型心筋症患者でジストロフィン遺伝子の異常が原因となっているか否かを検討した。しかし、今回の検討では拡張型心筋症患者の中にジストロフィン遺伝子のプロモーター領域に異常を有する例はなかった。このことは、ジストロフィンの分子種と心筋障害の関連に新たな視点の必要性を示唆したもので、今後の解決課題である。
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