本研究の目的は、情動ストレスの動物モデルとして恐怖条件付けストレス(CFS)を用い、CFSの中枢モノアミン及び神経ペプチドに対する影響を脳内透析法、RIA、in situ hybridization法などを用いて様々な脳部位において検討し、神経回路網における機能的局在を明らかにすることである。さらに、精神分裂病、うつ病のモデルとして、慢性覚醒剤中毒モデル、Katzの慢性ストレス誘発モデルを用い、CFSに対する反応性を様々な分子生物学的、神経化学的、行動学的手法によって明らかにする。以下に本年度えられた所見を列記する。 1 CFSによって惹起されるすくみ行動を不安の指標として、最近臨床に導入され、注目されている選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害剤(SSRI)の効果を検討した。CFSに対するSSRIの抗不安作用は恐怖条件付け(すなわちフットショック)からの期間が長くなる程効果が減弱し、有意な抗不安作用をもたらすためにはより高用量を要することが明らかになった。さらに、フットショックが長期に続く5-HT2受容体機能の低下をもたらすことが明らかになった。またSSRI慢性投与がSSRIや5-HT1Aアゴニストの抗不安作用を増強する結果がえられた。これらの実験結果は臨床的なSSRIの遅効性の機序と関連していると考えられる。これまでSSRIの抗不安作用の作用部位は知られていなかったが、SSRIの脳内局所投与実験によって扁桃体の一部の神経核が関与している結果がえられた。平成9年度にモノアミン酸化酵素阻害剤のCFSにおける抗不安作用がえられたが、SSRIに対すると同様にリチウム慢性投与はモノアミン酸化酵素阻害剤の抗不安作用を増強した。 2 脳内のドーパミン2(D2)受容体のmRNAの発現をリチウム慢性投与やSSRIの投与が増大する結果を平成10年度にえたが、mRNA発見の亢進が転写の亢進によることが明らかになった。
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